おろかな睡眠不足

好きな漫画やアニメやゲームの感想だったり推薦だったりを語彙力なく語ります

「プリンタニア・ニッポン」と過ごす豊かな生活

昔からペットをよく買ってみたいと思っていたのですが特に飼うこともなく月日が流れました。野望だけは今もこの胸に。

 

単行本リンク↓

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試し読みリンク↓

matogrosso.jp

 

(適当出力なあらすじ:佐藤が柴犬のつもりで生体プリンタから出力したのは、どうしたことかもちもちとした不思議生物だった。事故によって生まれた新種、「プリンタニア・ニッポン」という種として命名されるその生き物と暮らしていくことになった佐藤だったが…?)

 

迷子作「プリンタニア・ニッポン」は、イーストプレスのWebメディア・マトグロッソにて連載中のマンガになります。現在六話までとコミックス未収録分が閲覧可能なので是非是非。主人公佐藤と彼の友人達、そして彼が飼う事になる不思議生物「すあま」の日常を描いた物語です。

「すあま」はもちもちみわくのぼでぃーとつぶらな瞳がチャーミングな謎生物。事故によって出現したため、初期は生態すらも未解明な新種でした。佐藤は時に癒されつつ時に振り回されつつ、時に支えられつつ。彼(彼女?)と一つ屋根の下、コンサルとともに暮らしていくことになります。

 

さて。

あらすじ内で「生体プリンタ」、という、日常ものとしてはあまりにも聞き慣れない単語が度々出現していますが。概ねお察しの通り、すあまは––「プリンタニア・ニッポン」という種は、実は人工的に作られた種になります。それも主人公のご家庭で。事故によって。

つまり、ご家庭で生命の創造が行えてしまうことが倫理的にクリアされている「日常」である、いつかどこかのみらいの、日常の話…になるわけです。わーお。

 

この作品において楽しむポイントとして挙げられるのは大きく分けて二つだと思っていまして、ひとつはもちもちかわいいすあまと周囲の交流。そしてもう一つが、この少し不思議な–−「SF」な世界観の中で紡がれる日常、になります。

 

プリンタニア・ニッポンはとにかく牧歌的な日常描写に反する張り巡らされた管理社会、ディストピアなバックボーンの妙がいいんですよ。

作中で暮らす彼らにとってはありきたりな決まり事、過ごし方、選択一つとっても、その全てが現代ではあり得ない違和感として、読者の前に登場します。

 

ーー評議会と呼ばれる上位組織に管理・監視される人類。監視猫と呼ばれるロボットが地域を巡回し、自宅では「コンサル」と呼ばれるAIが個人個人に付き従い、助言や生活のサポートをしてくれる。

他者や評議会からの観測で常に人間性が評価され、その評価が基準よりも下がると資格の剥奪や「開拓地送り」となるなどの罰則が加えられる。気温天候は管理され、外出時間も決められているらしい。良い人間となれるよう精神性のテストなども定期的に行われている。虚偽は認められない…など。

 

読み返すだけでもサクサク色々な相違点が見つかるわけですが、この社会こそが佐藤の暮らす日常の舞台となります。閉塞感を感じてしまうような決まり事も、特別ではないごく普通の当たり前。ディストピアに暮らすありきたりな住人達を描く作品として見ても、きっと面白いんじゃないかな、と思っています。

 

SNSが変わらず普及している描写でちょっと親近感が湧く。冷蔵庫は貯蔵している原料をメニューとして調理し出力されるらしいのに便利だなあと思う。人との会話の一アクションとして「相手を評価する」が挟まっていることにちょっと驚いて、開拓先で四肢や頭を切断されることが珍しくない日常の範囲であることに決定的な差異を感じる。本来、SFってこういう楽しみ方が普通なのかはあんまりわからないんですけど、この違和感がすっごいクセになる。

 

彼らが持っている、私たちとよく似た倫理や同じような価値観は、決して私たちとは重なることはない遠いものです。でも、「すあま」がもちもちしていてとってもかわいいことだけは、あちらもこちらも変わらない不変の事実。だってこんなにかわいい…すあま…すあまはきょうもかわいいな…。

 

そんな「向こう側」でほのぼの(ちょっとハードに)繰り広げられるSF日常もの、是非是非読んでもらえればな〜と思います。

 

以上!