これで勝ったと思うなよー!(セルフエコー)
ゆるっとしているようでシリアスもあって、不真面目なようで至極真面目で、ギャグ処理されている事項が重要だったりふとした一言が後々に影響していく、そんな一切合切先の読めないご町内ファンタジーコメディ最高に面白い。あまりに面白くて最新刊発売前から発売している前提で書店員に在庫を聞いて恥をかきました。おのれ!
(ご近所のあらすじ:吉田優子はある日ツノとしっぽが生えていた。動揺する彼女におかーさんから告げられたのは、実は優子は魔族の末裔であることだった。そうして光の一族の巫女=魔法少女を倒す使命を背負うことになった優子ことキラキラ活動ネーム「シャドウミストレス優子(通称シャミ子)」は、早々ダンプに轢かれそうなところを桃色魔法少女に助けられるのだった)
作品について
伊藤いづも作『まちカドまぞく』はまんがタイムきららキャラットで連載中の四コママンガです。きらら科日常属らしい、基本一話完結のゆるっとしたファンタジーコメディでありながら、一貫したストーリーとキャラクターの描写、丁寧な伏線には舌を巻くものがあります。このテキストは1巻をベースに、ネタバレしない範囲で他巻にも触れていきます。
主人公でまぞくなへっぽこシャミ子、そんなシャミ子とライバルで友達?な魔法少女桃。一族の使命のためシャミ子はなんとか桃を倒そうとするけれど、人類を超えた圧倒的フィジカルをもつ桃の前に、非力でセンスのないシャミ子は負けてばかり。おまけに言いくるめられていつの間にか特訓を手伝われていたり、喝を入れられたり、逆にシャミ子が桃の世話をしたりとわちゃわちゃ。これで勝ったと思うなよー!とはそんなシャミ子の負け惜しみ。ままならないのがまぞくのいつも。不思議。
登場するキャラクターは誰も彼もが優しくて、人の行為を無碍にできないお人好しばかりだからそれもいいです。善意を断りきれないシャミ子はいつも桃に乗せられて流されてタイヤ引きずったりマラソンしてたり追い詰められたり。なんで?なんでだろうね……。
好きなところ
主人公、まぞく*1のシャミ子(略称)ことシャドウミストレス優子(まぞく活動名)こと吉田優子(本名)は、ある日突然まぞくとして目覚めてしまった15歳です。
シャミ子は貧乏な家にかけられていた「一ヵ月四万円生活の呪い」*2を解くべく、おかーさんからの助言で打倒魔法少女を目指します。
しかしシャミ子は本名の通りすごく優しい*3、正直まぞくにはあまりにも不向き過ぎる女の子。序盤こそ、>>こなくそー!<<と流されるまま魔法少女ーー桃へと挑みますが、その根っこの優しさのせいで段々と絆されていきます。……本当にほだされたのはどちらか分かりませんが。
体も頭も貧弱という尽くへっぽこでありながらも、絶妙なバランスでいくつもの才能を持っているシャミ子は、毎日をひたすら必死に生きながらその活動名*4らしい活動を無自覚に起こしていきます。
千代田桃は、そんなシャミ子が初めて出会った宿敵魔法少女。表情が薄く滅多に笑わないけれど、茶目っ気や天然、繊細さが山盛り入った性格をしている不思議な女の子です。
合理的なようで非論理的なことも場合によっては活用する柔軟さを持ち、そして筋肉が全てを解決すると思っている節がある。STRが強い。とても強い。魔法少女属性を抜きにしてもあまりにも強い。突然シャミ子に打倒宣言をされるものの、相手になるどころかもうこちらからヘルプを入れたくなるようなシャミ子の貧弱さにむしろ手を差し伸べてしまいます。さらに、私(桃)を倒させるためにへっぽこなシャミ子を鍛えていこうとする。それは本末転倒では?
桃は個人情報をあまり明かさないミステリアスな子です。それを感じさせないレベルにシャミ子に対して桃が主導権を握りまくってるのでシャミ子がそれに気づくのはまあまあ先なんですけども。自分にあまり頓着しないシャミ子もしかり。シャミ子の出自と桃のプロフィール、それらがストーリーのメインを担います。
その他にも個性豊かなご町内の人々――クラスメートの一般人杏里、シャミ子の妹の良子、シャミ子のごせんぞこと像に封印されているリリス、動揺すると周りに不幸を呼んでしまう桃の同僚魔法少女のミカンや、シャミ子が洗の……バイトすることになるバイト先の白澤店長(二本足で立つバク)と同僚のリコなどなど。
色んな人達とちょっと不可思議でさわがしい、ゆるっとした正にきらら的日常を繰り広げつつ、ゆっくりシャミ子と桃達を取り巻く様々な謎や秘密を解き明かしていきます。
一見してただの日常物と侮るなかれ、まちカドまぞくの作り込みは本物です。
個人的に、この感覚は絵本のバムとケロを読む時に似ているな、と思います(伝わるか?)。
バムケロでは、メインに文章含めて語られるバムとケロの後ろで、ヤメピやおじぎちゃんなどの仲間が密かにストーリーを繰り広げています。背景も無関係な場所も読み飛ばすべからず。笑ってしまうようなシャミ子のへっぽこや、筋肉に支配された桃の気まぐれなど、キャラクターのアクションのどれもがいつかの何かの伏線や描写として働くという徹底さ。例えば着ていた服、例えば拾ったもの、例えば1人じゃ折れなかったぽっきんアイス。そんなささやかな全てが繋がっていく。
私は単行本でこの作品を追いかけていますが、非常に綿密に練られた構成は本当に面白くて何度も読み返してしまう魔力があります。
逆に言えば、しっかり読み込まないと連載で追いかけるのは非常に難しいんじゃないかなとも思ったり。ストーリーは理解出来ていても、読み返しの難しい本連載だと、過去に張り巡らされた伏線を再び見つけることは叶わない。それを見つけた瞬間の感動を含めて、この作品の魅力ではないかと。もちろんほのぼのとした展開予想を裏切るぶっ飛んだ事実も最高です。
また、シャミ子を形作るにおいて欠かせないのが宿敵魔法少女の桃の存在です。
桃とは傍から眺めればおおよそ親友と呼べるだろう関係性をゆっくりと構築していきますが、2人の立場がそれをシャミ子に認めさせない。倒すべき宿敵で倒したくない友達、仲間ともライバルともつかないつかず離れず互いを思い合う関係は、どれだけ呼び方が移り変わろうと特別なようですごくシンプルです。夏は眷属と分け合うものだね。
しかしてそれとは別に、自分の感情に無自覚のまま桃を取られることへ嫉妬を抱くシャミ子と、シャミ子のフリーダムさに平静を保ちつつ決壊しそうな桃色ダムを抱える独占欲の強い桃の2人の行先がどこなのかは、一読者として見届ける他ないです。…フフ…
他、シャミ子の特徴の一つは口調だと思っています。まぞくとして精一杯悪ぶろうとする尊大な口調と、素であるところの丁寧語が入りまじるシャミ子の喋りは、それだけで「今彼女がどの立場で相手と関わろうとしているか」を示す指標になっています。これが面白い。
やさしさが多量に混じったハイブリッドまぞくの不器用さは伊達じゃなく、堅実的な桃の想像を超えるハチャメチャな解決法で何とかしようとする姿は必見です。
まとめ
正直面白いところみんなネタバレなので表層をなぞっただけですが、ただの物語として追う以上の様々な『エモい』描写が詰め込まれたまちカドまぞく、ま〜~〜~〜~〜~じで面白いので是非読んでください!!!!アニメ化待ってます!!!!えっアニメ化するんですか!?